アルツハイマー病は、脳に進行性の器質的変化をもたらし、認知機能、最終的には日常生活能力に影響を及ぼします。1
アルツハイマー病は緩やかに進行する不可逆的な神経変性脳疾患で、発症前の期間が長く(最長20年)、臨床期間は平均8~10年です。アルツハイマー病の進行に伴って、疾患バイオマーカーとなる脳の変化が起こります。1,5
疾患の進行は通常、アルツハイマー病の発症前段階、アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)期、軽度から重度に進行するアルツハイマー病の認知症期など、いくつかの段階を経て進行します。1
正常な認知の加齢 | |
高齢になるにつれて、認知力は徐々に低下していきます。初期段階のアルツハイマー病の方(およびその家族)は、初期症状を正常な加齢と考えて、医師に相談するのを先延ばしにしてしまうことがあります。1 |
発症前のアルツハイマー病 | |
発症前のアルツハイマー病は、症状を伴わないもののアルツハイマー病の病変がある状態です。13 |
軽度認知障害(MCI) | |
MCI期は、アルツハイマー病の症状期の初期段階で、アルツハイマー病の症状が認められ、1つ以上の認知領域に障害が認められるものの、症状によって日常生活に支障をきたすことはほとんどありません。1,13 |
認知症 | |
軽度アルツハイマー型認知症、中等度アルツハイマー型認知症、重度アルツハイマー型認知症の各段階は、認知能力がさらに低下していき、日常生活に障害を引き起こす段階です。10 |
アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)と呼ばれる病気の最初の臨床段階が、病気として認識されないことが非常に多いことが課題のひとつになっています。6-8 それはなぜなのでしょうか?これは、アルツハイマー病の初期症状を通常の老化と区別するのが難しいためかもしれません。アルツハイマー病の最初の徴候は、通常の老化によるものと誤解されることがあり、その結果、医者に行くのが遅れてしまいます。さらに、うつ病、聴覚障害、高血圧などの特定の併存疾患も認知能力や機能能力に影響を与えることがあり、アルツハイマー病の診断をタイムリーに行うことを難しくしています。6,9
アルツハイマー病による軽度認知障害は、このように過小診断され、見過ごされがちです。つまり、アルツハイマー病と診断されるのは、病状がかなり進行し、認知症であることが自明な晩期であることが多いのです。6-8
アルツハイマー病の早期診断は、初期の徴候や症状を持つ人々に、将来の計画を立て、ケアパートナーとともに病気とともに生きるためのより良い準備をする機会を提供する重要な第一歩です。
アルツハイマー病連続体は認知症だけでなく、MCIや発症前のアルツハイマー病も含むようになりました。実際、MCIがアルツハイマー病の一段階であるという概念は、30年前から受け入れられています。現在では、同じ定義要素に基づいてアルツハイマー病のMCI期を表す基準が複数存在します。そして2018年、FDA(米国食品医薬品局)はアルツハイマー病の早期治療に焦点を当てた薬剤の開発に関するガイダンスを発表しました。
1991
ニューヨーク大学の研究者たちは、認知障害と認知症を定義するGlobal Deterioration. Scale(GDS)の6つの病期の中にMCIを含めました。11
1999
メイヨー・クリニックは、認知症の定義に当てはまらない記憶障害に焦点を当てた、初期の認知機能障害を持つ患者を説明するための診断基準を作成しました。10,11
2003
スウェーデンのストックホルムで開催されたオピニオンリーダーによるキーシンポジウムでは、MCIの分類が拡大され、他の病因の可能性についても認識されました。10
2011
米国国立加齢研究所およびアルツハイマー病協会(NIA-AA)は、キーシンポジウムの定義を採用しつつ、アルツハイマー病バイオマーカーの使用に関する規則を追加して、アルツハイマー病連続体の基準を作成しました。10
2013: DSM-5
精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)には、軽度神経認知障害と呼ばれるMCI期を神経認知機能障害の一般的なカテゴリーとして含めました。10
国際ワーキンググループ(IWG)は、健忘型MCIの観察に基づいて認知症前アルツハイマー病の概念を構築し、アルツハイマー病の有症状期の最初の段階を、アミロイドβやタウのバイオマーカーを含むように定義しました。10
2018: NIA-AA
NIA-AAのワーキンググループは、アミロイドβと病理的タウをアルツハイマー病の決定因子とする一方、MCIをさらに細分化し、バイオマーカーを中心とした研究の枠組みを提案しました。12
1. Alzheimer's Association. Alzheimer's Association Report: 2020 Alzheimer's disease facts and figures. Alzheimers Dement. 2020;16(3):391-460.
2. 2021 Alzheimer's disease facts and figures. Alzheimers Dement. 2021;17(3):327-406.
3. Jack CR, Bennet DA, Blennow K, et al. NIA-AA Research Framework: Toward a biological definition of Alzheimer’s disease. Alzheimers Dement 2018;14:535–562.
4. Bateman RJ, Xiong C, Benzinger TLS, et al. Clinical and Biomarker Changes in Dominantly Inherited Alzheimer’s Disease. N Engl J Med 2012;367:795–804.
5. Masters CL, Bateman R, Blennow K, Rowe CC, Sperling RA, Cummings JL. Alzheimer’s disease. Nat Rev Dis Primers. 2015;1:15056. doi:10.1038/nrdp.2015.56.
6. Dubois B, Padovani A, Scheltens P, et al. Timely Diagnosis for Alzheimer’s Disease: A Literature Review on Benefits and Challenges. J Alzheimers Dis 2016;49:617–631.
7. Brooker D, La Fontaine J, Evans S, Bray J, Saad K. Public health guidance to facilitate timely diagnosis of dementia: ALzheimer's COoperative Valuation in Europe recommendations. Int J Geriatr Psychiatry. 2014;29(7):682-693.
8. Alzheimer’s Disease International. Dementia statistics, www.alzint.org/about/dementia-facts-figures/dementia-statistics. Accessed Janaury, 2022.
9. Risk Reduction of Cognitive Decline and Dementia: WHO Guidelines. Geneva: World Health Organization; 2019. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK542796. Accessed January, 2022.
10. Petersen RC. Mild cognitive impairment. Continuum (Minneap Minn). 2016;22(2):404-418.
11. Gerstenecker A, Mast B. Mild cognitive impairment: a history and the state of current diagnostic criteria. Int Psychogeriatr. 2015;27(2):199-211.
12. Jack CR Jr, Bennett DA, Blennow K, et al. NIA-AA research framework: toward a biological definition of Alzheimer’s disease. Alzheimers Dement. 2018;14(4):535-562.
13. Morris JC, Blennow K, Froelich L, et al. Harmonized diagnostic criteria for Alzheimer’s disease: recommendations. J Intern Med. 2014;275(3):204-213.
Biogen-232902 (疾患情報共通)